どっちかといえば松本人志が好きな人。
ブルー・レクイエム
僕はこの映画の主人公には心は惹きつけられなかった
監督/ニコラ・ブークリエフ
出演/アルベール・デュポンテル、ジャン・デュジャルダン、
フランソワ・ベルレアン
(2004年・仏)
度重なる襲撃事件によって買収寸前にまで追い込まれている現金輸送会社ヴィジラントに、新しい警備員としてアレックスという男がやって来ました。彼は地味で無口な男ですが、輸送車の襲撃に巻き込まれた際に幼い息子を武装グループの一人に射殺されてしまったという過去があり、その犯人たちへの復讐のため何か手がかりをつかもうとこの会社に雇われたのでした。
この映画を見るにあたっての僕の一番の失敗は、主人公のアレックスが息子の復讐のために現金輸送会社で働き始めたと見る前から知っていたことです。いざ映画を見ると前半はそのことに関しては一切触れられていないし、主人公には危険な輸送ルートに行きたがったり変に輸送車の襲撃に関する質問を同僚に執拗に聞いたりと不審なところが多いから、おそらく主人公がどんな秘密を抱えているのかというところにハラハラドキドキするのがこの映画の前半の楽しみ方でしょう。それなのにDVDにあらすじとして主人公の過去が書いてありますから、それを読んでしまった僕はその楽しみを失いました。DVDの製作会社もちょっとは考えてほしいですね
まあ、この映画は後半も面白くないんですけどね。ちょっと前に見た「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」も面白くなかったし、もしかすると僕はこういう硬派な男のドラマは好きじゃないのかもしれません。自分の信念に基づいて、一心に復讐を成し遂げようとする主人公の孤独な姿はまさにハードボイルドそのものだし、見る人によっては心が惹きつけられるのかもしれませんが、僕はそうでもなかったですね。
僕は普通の人にはない才能を持っている人に憧れる傾向があるので、「レオン」の主人公のように射撃の腕が一流とか何か特技があれば少しはかっこいいと思ったのかもしれません。しかしこの映画の主人公のアレックスは射撃の腕は同僚に嘲笑されるぐらいで標準以下だし、それ以外にも特殊な才能はなさそうです。この映画は主人公以外のキャラクターの掘り下げはあまりないので、主人公に何の魅力も感じないと辛いところですね。
あと、説明的なセリフがほとんどなく、映像も青を基調としていて暗い印象を与え、音楽も抑えているので、いいように言えばドライでクールな雰囲気が漂う映画なんですが、僕にとっては静かすぎてとにかく眠かったですね。話の展開もゆったりしていますし。
それに終盤で急展開して派手なアクションシーンになるところも、それまでの雰囲気はぶち壊しだし、いかにも映画のような感じがしてイヤでしたね。
この映画の評価は★1ですね。率直に言って何にも面白くなかったです。ラストが何の救いもない突き放したような終わり方なので、ハリウッド映画が嫌いな人にはウケるかもしれませんが、僕にとってはこんな映画よりベタな展開のハリウッド映画を見た方が全然マシでした。
主人公が働く現金輸送会社の職場の雰囲気は、ちょっと気に入ったんですけどね。いかにもうらぶれた生活をしてそうな同僚達の醸し出す人間臭さがいいです。僕は学生の頃していたバイトの1つが京都の平安神宮のテキ屋なんですが、ここで働いていた奴らも僕を含めてかなりうらぶれていました。唯一僕だけは大学に籍はあったんですが授業なんて年に5回も出ていなかったし、全員が酒飲みで喫煙者で女好きでギャンブラーでした。みんな個性的で一癖も二癖もある奴ばかりだったんですがかなり仲は良かったし、一緒にいて本当に楽しかったです。そんな青春時代の一コマを思い出してしまいました。
<ブルー・レクイエム 解説>
すべてを失った男の切なくも壮絶な復讐の物語。主演は『ベルニー』のアルベール・デュポンテル。監督は新進気鋭のニコラ・ブークリエフ。息子の命を奪った犯人と主人公が対峙する驚きのクライマックスは必見。
現金輸送会社ヴィジラントの現金輸送車襲撃事件に巻き込まれ、息子を失ったアレックス(アルベール・デュポン)は、武装した犯人に復讐(ふくしゅう)を誓う。数年後、ヴィジラントに警備員として就職したアレックスは……。
パッチギ!
泥臭い若者の青春を描いた作品としてはよく出来ている
監督/井筒和幸
出演/塩谷瞬、高岡蒼佑、沢尻エリカ
(2004年・日)
京都府立東高校の高校生である松山康介は、朝鮮高校に通うフルートが得意なキョンジャという女子高生に一目ぼれしてしまいます。しかし彼女の兄は朝鮮高校の番長のアンソンで、彼は康介の通う東高校の空手部と激しく対立していました。しかし康介はキョンジャと親しくなりたい一心で、ギターの弾き語りで「イムジン河」という在日朝鮮人が故郷に思いを馳せた歌を練習し始めます。
この映画は在日問題をテーマの1つとして扱っていますが、そのへんの描き方はまったくダメですね。在日の人が日本人を恨んでいるというエピソードはふんだんに盛り込まれているので、日本人と在日の人の間にわだかまりがあることだけはよくわかりますが、だからどうなんでしょうか。僕はこの映画を見ても日本人と朝鮮人の間にはやっぱり壁があるんだなあとしか思いませんでした。まあ大阪育ちで在日の奴なんて周りにいっぱいいた僕は映画を見る前からそんなことぐらい分かっていますけど。
まさか今さら、在日の人々を朝鮮半島から強制的に連れてきたのは日本人であるし、そうして連れてきた人たちを差別してきたのも日本人であるから、在日の人々の過去は知っておかないとけないし、彼らに対して申しわけない気持ちでいなければならないよとかいう小学生の道徳の授業レベルのことをこの監督は言いたいのでしょうか。僕が求めている答えはそんな小学生レベルのくだらないことではなくて、日本とか朝鮮とか在日とかそういう枠を飛び越えて、人間が自分自身と向き合い他人とわかり合うにはどうすればいいのか、ということなんです。
まあ、恋の力は民族問題という障壁すら打ち破るというかなり単純で強引な答えはこの映画は呈示していますし、難しいことを考えず「ロミオとジュリエット」のハッピーエンドバージョンとして見たら、出来は決して悪くない映画だと思いますよ。はっきり言って面白かったし、僕のこの映画の評価も★8とかなり高いですし。
在日の人々にやり場のない感情をぶつけられ、なすすべもなくその場を飛び出し、橋の上でギターを壊したりして大暴れする康介を、バックにフォーククルセイダーズの「悲しくてやりきれない」を流しながら映すシーンなんて最高に良かったですよ。この監督は郷愁を感じさせる泥臭い青春群像劇を撮るのがなんて上手いんだろうと感心しましたね。
ケンカのシーンにも強烈な若者のエネルギーを感じて、あふれんばかりの清々しさ感じます。だからこの監督は民族とか在日とか小難しいテーマなんて最初っから無視して、「岸和田少年愚連隊」みたいなベタな青春活劇ばっかり作ってればいいんですよ。そっちの才能はあるんだし、変に高尚なテーマを扱ってもどうせしょうもない答えしか出せないんですから。
もし沢尻エリカみたいな可愛い子と付き合えるんだったら、僕だってそりゃ朝鮮語や朝鮮民謡も勉強しますし、彼女の家族にもちょっとはおべっかを使いますよ。もちろん結婚となるといろいろ障害があるからしんどいけど、とりあえず付き合うというのが一番の理想ですからね。この映画の主人公が「あんた朝鮮人になれる?」というキョンジャの先を見据えた質問にたじろいでいたのは、おそらく僕と同じような考えを持っていたからでしょう。
だから彼がキョンジャと付き合えたからといって、僕は個人の思いが民族の垣根を越えるとはこれっぽっちも思いませんし、在日問題に関してのこの映画の答えにはまったく納得していません。キョンジャの美貌が民族の垣根を越えたという答えの方がまだ納得できたですね。それぐらいこの映画の沢尻エリカは可愛かったですし。僕は何やかんだ言ってもこの人の演技を見るのは初めてなんですが、とても華のある女優だなと思いました。
<パッチギ! 解説>
『ゲロッパ!』『岸和田少年愚連隊』の井筒和幸監督の最新作。主人公の康介を演じるのは監督に大抜擢を受けた塩谷瞬。朝鮮高校の番長役に『青い春』の高岡蒼佑。伝説的名曲「イムジン河」と複数のエピソードがシンクロするクライマックスに胸が熱くなる。
1968年、京都。高校2年生の康介(塩谷瞬)は、担任からの指示で親友の紀男(小出恵介)と敵対する朝鮮高校に親善サッカーの試合を申し込みに行く。そこで康介は音楽室でフルートを吹くキョンジャ(沢尻エリカ)に一目惚れするが……。
ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア
男の友情をまっすぐに描いた好感の持てる作品
監督/トーマス・ヤーン
出演/ティル・シュヴァイガー、ヤン・ヨーゼフ・リーファース、
ティエリー・ファン・ヴェルフェーケ
(1997年・独)
致命的な脳腫瘍のマーティンと末期の骨髄腫のルディは、それぞれ医者から余命わずかと宣告され、同じ病室に入院することになります。マーティンは見た目そのままの荒っぽい気性の男ですが、ルディは対照的に線が細くおとなしい性格です。「天国じゃみんなが海の話をする。」と言ったマーティンに対して、ルディが海をまだ見たことがないと答えたため、2人は駐車場にあった車を盗み、人生最後の旅に出かけることにしました。しかし、その車は実はギャングのもので、中には大金が積まれていました。
まあ、特にここが素晴らしいとかそういうのはない映画です。雰囲気もタランティーノ作品や僕が最近見た「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」に非常に良く似ているので、目新しさはないです。タランティーノ以降の若い監督に多いんですが、プロットは単純だし、予算はないから大物俳優も使わないけれども、セリフ回しやストーリーのテンポ、音楽の使い方などに工夫をする典型的な脚本勝負の映画ですね。
しかし、あまりにも男の友情をまっすぐに描いているので、いくら僕が大人になって家族以外の人間を全面的に信用しなくなったといっても、やはりちょっとは感動してしまいます。昔あった「キン肉マン」という漫画は、キン肉マンを始めとする正義超人達はよく友情パワーという奇跡の力を発揮して苦境を乗り越えていましたが、そういえばあの漫画も僕はむちゃくちゃ好きでしたし。
この映画の主人公達はキン肉マンと違ってどうせ死ぬんだからと開き直って窃盗や強盗など悪いことばかりするので、あまり友情パワーをいい方向に働かせているとは言い難いですが、なぜか憎めないし、応援したくなります。まあ一番の理由は彼らが人殺しはしないからでしょう。だから本当の悪い奴には見えません。ちなみにこの映画はけっこう派手な銃撃戦やカーチェイスなどがありますが、何だかんだ言って人は1人も死んでいないと思います。アクション映画の殺伐とした雰囲気はほとんどない映画です。
かなりコミカルな場面も多いですしね。主人公達を追いかけるギャングもかなりマヌケですし。というか主人公達もどこかやることがズレていて、けっこう笑えるところは多い映画です。しかし、たまにマーティンが発作を起こし、それが非常に苦しそうなので、その時は急に現実に引き戻された感じがして緊張感が出てきます。何だかんだいって重病患者ですからね。あせって薬を探したりするルディの様子も見ててせつなくなってきますし。だからこの映画は単なるとぼけたおとぎ話ではないですし、かといって重くて暗いだけの話でもない。そのへんのバランスは非常にとれている映画だと思いますよ。
ラストもまあ予想通りの展開ですが、悪くはないです。このシーンを見てると、主人公達がうらやましいなあと思いますね。たぶん、主人公達は病室でお互い出会うまではそんなに幸せな人生を送ってなかったと思うんですよ。ですが出会ってからは間違いなく幸せな人生だったと思います。
僕なんかはちょっとでも体調が悪くなるとすぐに心も折れてしまう弱い人間ですし、医者に余命わずかとか言われたらどうなるんだろうとよく考えます。もちろん、後悔のないようにやりたいことやって死ぬのが理想なんですが、おそらく現実には何をやっても楽しくないぐらい落ち込んでしまって、結局何もできないまま死ぬんだろうなと思います。それに1人だと、いくら死ぬ覚悟があっても、出来ることも限られてくるでしょう。しかし、この映画の主人公達のように、「こいつとだったら何でもできる。」というぐらいの絆がある奴と一緒なら、かなりパワフルに生きられそうな気がしてきますからね。
死んだ後に困らないために行動を起こすという主人公達の究極的に前向きな姿勢も素晴らしいと思いますね。はじめは、「はぁ?海なんか簡単に行けるやろ?」と思いましたが、よう考えたらドイツが日本と違って周囲に海が少ないですからね。
<ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 解説>
本国ドイツで大ヒットとなったアクション・ロード・ムービー。余命わずかと宣告され、たまたま末期病棟の同室に入院させられたマーチンとルディ。二人は死ぬ前に海を見るために病棟を抜け出し、ベンツを盗んで最後の冒険へと出発した。その車がギャングのもので、中に大金が積まれていたことも知らずに……。道中、残り少ない命の彼らに怖いものなどなく、犯罪を繰り返し、ギャングのみならず、警察からも追われる身になるのだが……。
マルホランド・ドライブ
不条理で悪夢のような世界を感じるだけで面白い映画
監督/デヴィッド・リンチ
出演/ナオミ・ワッツ、ローラ・エレナ・ハリング、アン・ミラー
(2001年・米)
ハリウッド女優になるために、有名女優である叔母を頼ってきたベティは、叔母の家でリタと名乗る記憶喪失の女性が隠れているのを見つけます。リタが唯一覚えていた言葉「マルホランド・ドライブ」を手がかりに、ベティは彼女の記憶を取り戻す手助けをします。ある日偶然入ったレストランでリタは「ダイアン・セルウィン」という名前を思い出し、ふたりはダイアンの住所を調べ家を訪ねますが、そこには腐った女の死体がありました。
この映画は満点です。僕はデヴィッド・リンチの作品はかなり昔に「エレファント・マン」を見たぐらいなので、この映画の世界観はむちゃくちゃ衝撃的でしたね。始まってすぐのダンスのシーンから不穏な空気が漂っていて、「ああ、この映画はそんじょそこらの映画とは違うな。」と思わせます。わけのわからないストーリーと映像はこちらの理性を完全に麻痺させるんですが、この映画の持つ底知れない不気味な雰囲気が、感性的な側面を刺激してくるんですよ。それは決して不快ではなく、むしろ心地いいですね。酒に酔ったような感覚と似ています。この監督はイメージ作りが非常に上手だと思いますよ。映像だけでもこの映画は十分に見る価値があります。
特に、「クラブ・シレンシオ」のシーンはこの映画の中でもとりわけ異様な輝きを放っており、とてもインパクトのあるシーンです。ここはおそらくストーリーの種明かしのようなところだと思いますし、監督も気合いを入れて作ったのでしょう。彼の持つ独自の世界観が一番色濃く出ていると思います。
ストーリーはとにかく難解です。時間も空間も入り乱れていて何が現実なのかすら分からないような話で、考えれば考えるほど頭がこんがらがってきます。多くの同じ顔をした登場人物が途中で名前も人格も立場も変わるので、この映画が2つの世界を描いているのは間違いないんですけどね。まあ、「クラブ・シレンシオ」でのベティとリタの様子や、司会者の「すべてはまやかし」というセリフから普通に考えたら、この2つの世界というのは、ブルーボックスを開けるまでが「ある人物」の妄想の世界で、その後は「ある人物」の現実の世界で、結局はこの映画は田舎娘である「ある人物」がハリウッドを目指し、女優とレズの関係になり、結局は恋にも夢にも破れて悲惨な末路を辿るストーリーなんだなと思います。いい夢を見た後というのは切ない気持ちでいっぱいになりますが、この映画も切なさと悲しさでいっぱいです。
しかし、この映画は完璧に解釈するのは不可能だと思いますし、僕は解釈する必要すらないと思いますね。僕がこの映画で一番気に入ったところというのは、映像においてもストーリーにおいてもわけが分からないところですから。この映画はわけがわからないからこそ見ていて不安になるし、底知れない不気味さを感じるんだと思います。
他の映画だったら映像はともかくストーリーが分からなかったら全然面白くないですけどね。僕が最近見た映画でストーリーが難解な映画を挙げるとすれば「ドニー・ダーコ」と「メメント」ですが、僕のこの2つの映画についての評価は決して高くないです。しかし「マルホランド・ドライブ」は、その不条理で悪夢のような世界を「感じる」だけで十分面白いですし、逆に意味をもってしまうとその不気味な世界観が壊れてしまい、つまらなくなるような気がしますね。
ただ、まったくむちゃくちゃな話ではないですよ。おそらく「ある人物」の妄想であろう世界に登場する殺し屋がすごい間抜けなことや、僕はタバコをとてもたくさん吸うので映画で灰皿が出ると絶対見てしまうんですが、この映画にも何度か登場する灰皿なんかには、きっと意味があると思います。ちょこちょこ出てくる不気味なカウボーイも何を表しているかはだいたい分かります。ストーリーを理解する手がかりはこれ以外にももっとたくさんあると思いますよ。僕はストーリーを理解するのを放棄しましたが、純粋に謎を解くということだけでも、この映画は楽しめるんではないでしょうか。
この映画はキャスティングも文句なしです。主演のナオミ・ワッツは「ザ・リング」に出てた人ですね。「ザ・リング」の役はそんなに難しくない役だからあまり印象に残っていませんでしたが、この映画ではすさまじい熱演じゃないですか。明と暗を見事に演じ分けていましたよ。ローラ・エレナ・ハリングという人は初めて見ましたが、この女優も妖艶な美しさが映画の雰囲気に合っていて非常に良かったです。
<マルホランド・ドライブ 解説>
ある真夜中、マルホランド・ドライブで車の衝突事故が発生。ただ独り助かった黒髪の女は、ハリウッドの街までなんとか辿り着き、留守宅へ忍び込む。すると、そこは有名女優ルースの家だった。そして、直後にやってきたルースの姪ベティに見つかってしまう。ベティは、とっさにリタと名乗ったこの女を叔母の友人と思い込むが、すぐに見知らぬ他人であることを知った。何も思い出せないと打ち明けるリタ。手掛かりは大金と謎の青い鍵が入った彼女のバッグ。ベティは同情と好奇心から、リタの記憶を取り戻す手助けを買って出るのだが…。
激突!
同じシチュエーションがずっと続くので、退屈で眠くなる。
監督/スティーヴン・スピルバーグ
出演/デニス・ウィーヴァー、キャリー・ロフティン、
エディ・ファイアストーン
(1971年・米)
主人公のデビッドは、貸した金を返してもらいに知り合いのところまで車を走らせている途中で、前方を走るタンクローリーを追い抜きました。これが事件の発端でした。何とそのタンクローリーは轟音をたててデビッドの車を抜きかえすと、再び前方をふさぐという嫌がらせをしてきます。腹の立ったデビッドは再び追い抜きますが、タンクローリーはしつこく追いかけてきます。
この映画は巷では非常に評判の良い昔のスピルバーグの作品なので、製作年度は古くても多少は期待していたのですが、いざ見てみたら「ふ~んこんなもんか。」と思ってがっくりしました。
現代の車社会ではいかにもありそうなことなのに、どうしてそこまで追いかけられ、命まで狙われないといかんのかといった不条理さや、タンクローリーの運転手の顔を映さないのでどんなヤツか分からないという不気味さが、何ともいえない恐怖感や緊張感を演出していて、最初は面白いんです。
ただ、同じシチュエーションが1時間半ずっと続くので、途中で飽きてきて眠くて眠くて仕方ないんですよ。デビッドもいつまでも追いかけられとらんと、いいかげん別の手を考えろと思いますね。逃げ方が甘すぎてイライラしてきます。
ラストも予想通りのオチですね。まあそこしか落としどころはないと思うんですが、まったく意外性もないし深みもないストーリーです。いったいこの映画はどこがそんなに評価されているんでしょう。良いところといえば演出とカメラワークぐらいですかね。しかしそれもこの映画が他の映画より飛び抜けて優れているとは思えないですし。
そりゃ35年も前の映画だし、予算や製作日数も考えると当時としては驚きのクオリティかもしれないですよ。しかし今は他にもっと面白い映画がたくさんあるじゃないですか。例えば最近のスピルバーグの映画では僕は「マイノリティ・リポート」が一番好きなんですが、予算や製作年度をまったく考慮しないで見比べると断然「マイノリティ・リポート」の方が面白いですよ。
点数は★1です。今となっては、「スピルバーグは昔の方がずっと良かった。」と誰かに語りたい人だけが見るべき映画ですね。
ただ、車のチョイスだけは良かった。どっか頼りない感じがする主人公の赤のセダンも、まるで生きている怪物のように見える黒いタンクローリーも。
<激突! 解説>
ごく普通の男が車で走行中ただ追い越したことだけをきっかけに、殺意に満ちた見知らぬ大型タンク・ローリーに追いかけ回されるさまをスリリングに描いたサスペンス。