どっちかといえば松本人志が好きな人。
バタフライ・エフェクト
人間ドラマとして主人公の成長をきちんと描いています。
監督/エリック・ブレス、J・マッキー・グルーバー
出演/アシュトン・カッチャー、エイミー・スマート、
ウィリアム・リー・スコット
(2004年・米)
一時的なブラックアウトにたびたび陥る主人公のエヴァンは、ある日、自分のつけている日記を読み上げることで、記憶が抜け落ちているその時に舞い戻り、過去を変えることができるという力に気づきます。彼はその力で、悲惨な人生を送りあげくに自殺した幼なじみのケイリーを救おうとします。
この映画は文句なしに面白いです。大きな賞レースに参加したわけでもないし、キネマ旬報の評価も低いですけど。あまり作品としての重みを感じさせない映画だからでしょうね。これはこれで脚本もかなり丁寧に作りこまれていると思いますし、中途半端な出来で重苦しいテーマの史実物やドキュメンタリーを見るよりはこういう娯楽作を見た方がよっぽど心にも身体にもいいと思うんですけどね。
僕は元々タイムスリップやブラックアウトを題材にした映画が好きですし、「もしあの時違う決断をしていたら、どんな人生になっていただろう?あの時に戻って人生をやり直したいなあ。」という思いも人より強い、こういう映画を見るのにまさにうってつけの人材です。だからかなり期待して見たんですが、期待を裏切られなくてよかったです。
ちょっと前に見た「ドニー・ダーコ」も同じようなタイムスリップ物でしたが、あっちは難解すぎて僕の頭ではついていけませんでした。この映画は面倒な理屈抜きに人間ドラマとして充分楽しめます。主人公が時間軸を行ったり来たりするんですが、決して構成は難解ではなくストーリーを追うのに苦労しません。そしてストーリーも最初から最後までスリリングな展開で見てて飽きないです。
そして何よりもこの映画の最も素晴らしいのは主人公の最後の決断ですね。主人公は何回も過去に行って未来を変えるために頑張るんですが、何回やっても上手くいかなくて泥沼状態になり、彼自身と彼の大事に思っている人達がみんな幸せになる未来なんて存在しないことを知ります。そして彼はある決断をするんです。この決断がこれ以上ないぐらい悲しくて切ないんですが、達成感も伴う決断なんです。僕が先ほどこの映画を「人間ドラマ」として面白いと言ったのは、そういうところからです。主人公の成長をきちんと描いていると思いますよ。
それにこの映画の大きなテーマの1つは初恋ですしね。初恋ほどほろ苦いものはないです。だから主人公にも自然に感情移入できます。
しかし、ケチをつけるところがないわけではないです。まず、DVDに入っている2つの別エンディングです。前に別の映画の感想で言いましたが映画を1つの作品として捉えるにあたってこういう特典は非常にうっとうしいです。おまけにこの2つのエンディングの出来がとんでもなく悪いですからね。こんなしょうもないエンディングはずっと封印しとけと言いたいです。
あと、主人公がたくさん生み出したパラレルワールドはどうなったんだという疑問が残ります。僕がリスペクトする藤子・F・不二雄先生の作品「のび太の魔界大冒険」では、魔法に憧れるのび太がもしもボックスという道具で魔法の使える世界を生み出してしまうんですが、その世界は魔王は出るわ魔物は出るわのとんでもない世界で、おまけにもしもボックスはママが粗大ゴミに出してしまい元の世界にも戻れないという窮地に立たされます。そんなのび太たちの所にドラミちゃんが助けにきて、もしもボックスを出し、さあ元の世界に戻れる、万事解決かな、と思わせます。しかしドラミちゃんの「魔法世界は魔法世界でパラレルワールドとなり元の世界とは別々に事が進む。」という説明を聞いたのび太たちは、「魔法世界の人々は魔物の脅威にさらされ続ける。それでは真の解決にならない。」という思いから再び魔法世界に向かうのです。
どちらの作品の主人公の行動がより納得できるかは言うまでもないと思います。まあ、この映画がダメというわけではないんですけどね。何回も過去に戻って未来を変える行為なんて倫理的に良くないというのはこの映画の主人公も分かっていることだと思いますし。「のび太の魔界大冒険」よりは、ちょっと胸にもやもやが残るかなというぐらいです。点数は★9とします。それも限りなく満点に近い★9です。
<バタフライ・エフェクト 解説>
過去に戻って現在、未来の出来事を変えることができる青年を描いたSFスリラー。『ジャスト・マリッジ』のアシュトン・カッチャー主演作。共演は『ラットレース』のエイミー・スマート。ノンストップで繰り広げられるストーリー展開と驚愕のラストは必見。
幼い頃、ケイリー(エイミー・スマート)のもとを去るとき、エヴァン(アシュトン・カッチャー)は、「君を迎えに来る」と約束した。だが時は流れ、ケイリーとエヴァンは全く別の道を歩んでいた。
オープン・ユア・アイズ
使い古されたネタだが構成が面白いので良い映画です。
監督/アレハンドロ・アメナーバル
出演/エドゥアルド・ノリエガ、ペネロペ・クルス、ナイワ・ニムリ
(1997年・スペイン)
プレーボーイの主人公セサルはハンサムなうえ金もある幸せな男でした。ある日彼はパーティで、親友が連れてきたソフィアという女性に一目ぼれします。しかし、以前彼に振られた女性ヌリアがそれを見て嫉妬し、セサルをドライブに誘い、無理心中気味の事故を引き起こします。その結果ヌリアは死に、セサルは顔にひどい傷を負ってしまいます。手術をしても顔を元に戻すことが不可能と医者に告げられたセサルは心も屈折し、ついにはソフィアや友人にも相手にされなくなり悪夢のような人生になります。しかしある日彼が目が覚めると、なぜか無理だとされていた手術が成功して自分の顔は元通りになり、ソフィアとも再び仲良くなります。
事故によって自分の顔がむちゃくちゃになり、恋人にも友人にも普通に接することができなくなって自暴自棄になるというとっかかりからこの映画はいいですよ。現実社会で生きるうえでは何だかんだ言って見た目も大切ですし、無理なく主人公に感情移入できる始まり方です。僕は主人公のように金もないしハンサムでもないので、最初は高慢ちきな彼のことが当然気に入らなかったのですが、事故が起きてからの彼は特にソフィアとの絡みなんかはあまりにも哀れで見てて切なくなってくるし、生きざまも同じ1人の人間として非常に共感できました。
そして、「夢を見る」という行為もメカニズムがよくわかっておらず非常に謎めいたものなのに、何だかんだ言って毎晩自然に見てしまう非常に親近感のあるものなので、この映画だけでなく色々な映画で格好の題材になっています。しかしその多くの映画の中でもこの映画は語り口の上手さではトップクラスだと思いますよ。ストーリーの鍵が「現実」と「夢」の境界というのはオープニングから分かることなんですが、最初っから最後まで、「あれ、今までのは夢だったのか。」の連続で、何が現実なのかよく分からないこの映画の世界にぐいぐい引き込まれていきます。
主人公の頭がおかしくなっていくんですが、こっちも先の展開が読めず見てて本当に空恐ろしくなっていきます。後半は加速度的に展開が速くなり、衝撃のラストを迎えるんですが、こんなに夢中になって見れる映画はなかなかないですよ。とにかく素晴らしい構成の映画です。僕はDVDで見たので、途中で止めて休憩したり別のことしたりできるんですけど、そういうことすら思いつかないぐらい映画の世界に入り込んでいました。
ラストはちょっと衝撃的すぎて唖然としてしまいますが、冷静になってからよく考えたら最初っから最後まで騙されていたような気もしますね。そうだとしたらネタ的には使い古されたありきたりのものであり、普通の映画でこのオチだったら僕は酷評するんですが、この映画は見せ方が上手いからラストまでむちゃくちゃ楽しめるし、オチが何であれそんなに腹は立たないですね。それにこの映画ははっきりと答えを言っているわけではないので、僕が解釈を間違えているだけかもしれないですし。
それにラストの屋上のシーンで抜けるように広がっている青い空を見ていると、主人公というか人間がすごくちっぽけに見えてきて、何が夢で何が現実とか考えるのがむなしくなってきます。ちなみにこのシーンはこの映画の中で一番印象に残っていますね。それまで暗くて退廃的な映像が続いていたのに、このシーンの青空だけは澄み渡っていて、とにかく鮮やかですから。
この映画はトム・クルーズが「バニラ・スカイ」という映画でリメイクしていますが、僕はそっちは見る気がしないですね。同じようなストーリーだったら絶対に最初に見たやつの方がインパクトがあるから良く見えますし、この映画のまさに夢うつつ状態に見える何ともいえない不思議な雰囲気はハリウッド映画では出せないような気がしますしね。
この映画の評価は★9とします。とにかく面白くて、見てる間どれだけ楽しめるかという点では文句なしなんですけど、心にいつまでも残る映画ではないような気がするので、満点は付けづらいですね。
<オープン・ユア・アイズ 解説>
第11回東京国際映画祭でグランプリに輝いたサスペンス。ある男がたどる、夢と現実が曖昧になる恐怖をサスペンスフルな展開で描く。悪夢と現実の狭間の喪失感を表現したスタイリッシュな映像、そして疾走感溢れる謎めいたストーリーが秀逸。ハンサムで自由な恋愛を楽しみ、裕福な生活を送る青年セサル。しかし彼の人生は交通事故で一変。顔は醜く変貌し、恋人からも冷たくされる。そんな中、不可能とされた手術は成功し、全ては元の幸福な生活へと戻ったかに見えたが...。
アメリ
ギリギリのラインで魅力的な主人公を作ったのがすごい
監督/ジャン=ピエール・ジュネ
出演/オドレイ・トトゥ、マチュー・カソヴィッツ、ヨランド・モロー
(2001年・仏)
主人公の少女アメリは、ちょっと変わり者で神経質な2人である医者の父親と教師の母の間に生まれました。アメリは父親に抱きしめられるのが好きだったので、父親による健康診断の時に胸の鼓動が速くなってしまい、父親に心臓の病気と勘違いされます。そのため学校にも行かせてもらえず、勉強は母親に教えてもらうことになりました。友達が1人もできないまま育ったアメリは、毎日を空想ばかりして過ごしていました。そして時が経ち、大人になったアメリは、モンマルトルで1人暮らしをしながら、カフェで働いています。ある日アメリは自分の部屋で、アメリの前にその屋に住んでいたであろう男の子のおもちゃの詰まった宝箱を見つけます。そして、その宝箱を今はもう大人になっているであろうその男の子に届けようと決心します。
この映画についてはいかにも女受けを狙ったオシャレぶった中身のない映画だなあというイメージをずっと持っていて、実際に見てみてもその通りの女受けの良さそうなオシャレな映画なんです。しかしそのオシャレさは決してうすっぺらいものではなくて、グロテスクなものがきらびやかな衣服を身にまとっているような感じで、かなりクセがあるんです。出てくる人は変な人ばっかりだし、映像もけばけばしくて派手ですし。しかし、どこか懐かしい雰囲気も漂っているし、音楽も上品だし、おとぎ話を訊いてるかのような落ち着きのある心地よい味わいもあるんです。ちょっと説明しづらい世界ですね。しかし箱庭のように作りこまれたこの映画の世界はファンタジーっぽいストーリーともきちんと合っているし、この監督が独特な素晴らしいセンスの持ち主であるのは十二分に分かります。
ただ、この「十二分」というところがこの映画の唯一の欠点ですね。これが「十分」だったらこの映画は本当に文句のつけようがない満点の作品ですよ。ただ、ちょっと監督の「オシャレでしょう?」みたいなキザな感じが鼻につくんです。だからこの映画の評価は★9にします。完璧に僕の好き嫌いなんですけどね。
この映画は大きくジャンル分けするとアメリとニノという青年のラブストーリーなんですが、実際はアメリと彼女の周辺にいる様々な人間とのエピソードが連なっている映画です。しかし決して話が切れ切れの散漫な映画ではありません。出だしの奇妙なノリでまずこの映画の世界観に興味を持ち、アメリが最初にダイアナ妃の事故のニュースでびっくりしたところからアメリの恋の結末までテンポ良くなおかつ自然に物語が流れていき、初めは意味がわからなかった数々のエピソードの謎もだんだんと解けていきます。この映画の話の進み方、構成は本当に上手いですね。ひねくれ者の僕がアメリの生い立ち、性格、行動を自然に理解していき、いつのまにかアメリという人間に魅力を感じるようになって、心からアメリの恋を応援していたぐらいですから。
アメリはさすが1人だけの空想の世界で生きてきただけあって、かなり変わった人です。人を幸せにしたいという心がけは立派なんですが、やってることはかなり押し付けがましいし、まわりくどいし、社会性に欠けているのか犯罪すれすれの危ないこともためらいなく行います。そのくせ変に内気でコミュニケーションが苦手だからじれったいところもあります。普通に考えたらウザいうえにかなり危険な、絶対に関わりたくない人間なんです。しかしこの映画のアメリはなぜかそう見えないんですね。いじらしくて微笑ましく、見ててこっちの心も暖かくなります。アメリの周りの人が彼女の恋をバックアップするのも分かりますね。
一歩間違えればとんでもない奴というギリギリのラインで、このような魅力的な人物像を作り出したというのはつくづくすごいと思います。アメリ役のオドレイ・トトゥもこれ以上ないハマリ役ですね。このキャラクターの完成は彼女の持つ雰囲気があってこそだと思います。
ちなみにアメリの恋人のニノも仕事はポルノショップとお化け屋敷のバイトのかけもちで、趣味は証明写真を撮る機械のそばに捨てられている写真を集めることという、こちらもどう考えてもまともな人間ではないんです。こんな奴との恋なんて本当は応援したらいけないんですよ。アメリもしがないウェイトレスですし、こんな2人が結婚してもお先真っ暗じゃないですか。しかし、この映画の持つ不思議な雰囲気は、それをいいんじゃないのと思わせてくれます。僕らが普段抱いている「フリーターは将来性がない」という常識を吹き飛ばしてくれます。だから見終わった後はこのうえなく爽快な気分だし、間違いなくこの映画は癒し系の映画だなと思いますね。日本で流行った理由も分かります。
まあ、好みの問題はもちろんあると思いますが、けっこう多くの人に受け入れられると思いますよ。松本人志の「シネマ坊主」でも書いてありましたが、僕もこの映画はもっと昔だったらこんなに流行らなかったと思うんです。しかし現代人は、考え方が柔軟になってこのような映画も受け入れるようになってきてるし、なおかつ普段の人生に疲れていてこういう元気が出る映画を求めるようになってきてると思いますよ。
<アメリ 解説>
小さい頃から空想の世界が一番の遊び場だったアメリ。22歳になった今でも、モンマルトルのカフェで働き、周りの人々を観察しては想像力を膨らませて楽しんでいた。そして、あることをきっかけに、他の人を幸せにすることに喜びを見出したアメリ。他人の人生にこっそりおジャマしてはたのしい悪戯を仕掛け、人知れずお節介を焼いて回るのだった。そんなアメリも自分の幸せにはぜんぜん無頓着。ある日、不思議な青年ニノに出会ったアメリはたちまち恋に落ちてしまうのだったが、アメリは自分の気持ちを素直にうち明けることが出来ない……。
アモーレス・ペロス
人間が「生きる」ということを描いた、見ごたえのある映画
監督/アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
出演/エミリオ・エチェバリア、ガエル・ガルシア・ベルナル、
ゴヤ・トレド
(1999年・メキシコ)
時間軸が交錯しつつ微妙に絡みあっている、3つの話から構成されている映画です。1つめの話の主人公はオクタビオという青年で、自分の兄ラミロの妻であるスサナに恋愛感情を抱いています。彼はスサナと2人での新しい生活を夢見て、自分の飼っている犬を闘犬に出場させ、お金を稼ぐことにします。2つめの話はモデルのバレリアと、彼女と不倫関係にある妻子持ちのダニエルが主人公です。ダニエルがついに妻子と別居し、2人の幸せな生活が始まるはずだったのですが、突如バレリアに災難が訪れます。3つ目の話は殺し屋エル・チーボが主人公です。彼は昔は反政府活動に没頭し、妻子も捨てたのですが、今でも娘のことは気がかりです。そんな彼に、自分の兄弟を殺してくれという仕事の依頼がきます。
僕は大学生の頃、下宿していたマンションにやって来た怪しげな宗教団体の人に、革張りの立派な本をもらったことがあります。いらんと言ってもくれると言うから、仕方なく受け取って、どうしようもなくヒマな時に読んでみたんですが、読んだら読んだで宗教に全く興味のない僕でもなかなか面白かったです。キリストが出てきてたので、多少はその団体特有の解釈があるにせよ、キリスト教に関する本なのは間違いないでしょう。僕は今回この映画を見て、その本に書かれていたことを思い出しました。たぶんこの映画の監督は、宗教に多少興味があるんだと思います。
たしかその本には、神は完全に愛を実践できるんですが、人間の愛は神の愛にははるかに及ばない不完全なもので、間違えた方向に進んでしまう、といったことが書いてありました。まさにこの映画で描かれている愛そのものです。タブーを犯していると言ってもいい、罪深い愛ばかりです。そんな愛でもこの映画の登場人物達は、傷つけ傷つけられながら必死で相手に伝えようとしているんですけどね。
この映画が全編にわたって退廃的な雰囲気が漂っており、どう考えてもハッピーエンドのお気楽な映画ではないなというのは開始5分でわかります。この監督は、悪いことをしたら当然報いはあるのだが、そもそも人間は罪深い存在だから、その罪に対する罰として苛酷な運命を辿るのは必然であり、だからこそ生きるということは辛いんだ、ということを言いたいんでしょう。この映画の登場人物には、「こいつは何て運が悪いんだ。」と言いたくなるような痛々しいことばっかり起こりますし、結末も救いようがないですからね。
しかし見終わった後に絶望だけが残り、生きるのがいやになる映画では決してありません。この映画には、「人が生きるというのはすごくしんどい」ということだけでなく、「人が生きるというのはすごくしんどいことだけれど、未来は絶対にあるし、だからこそ人は生きていくんだ。」というメッセージもあるんです。特に3話目はそうですね。この監督は人間を冷めた目で突き放して見ているわけではなく、基本的には受容しているんでしょうね。人間は不幸を乗り越えることができるんだという見方をしていますから。
とにかく、「人間が『生きる』ということはこういうことなんだ。」というこの映画にぶつけている監督の気持ちがひしひしと伝わってくる、非常にパワーがあり、見ごたえのある作品です。映像も粗いですが、それがよけい映画の世界をリアルに感じさせ、登場人物達の生きざまを生々しく見せてくれます。文句なしにいい映画ですね。点数は★9ぐらいはあるでしょう。最近流行りの時間軸が交錯する構成の映画ですが、構成が複雑すぎてストーリーを追うのに疲れるといったことはなく、じっくりとストーリーを味わいながら見ることができます。
ちなみに、この映画はタイトルが「犬のような愛」というだけあって、犬がたくさん出てきます。人間と犬が重なるシーンも多いから比喩としても効果的ですし、闘犬のシーンなんかも迫力があっていいんですが、どう考えても動物が好きな人がこの映画を見たら怒るだろうなというハードな映像がたくさんあります。特典映像で犬が丁重に扱われていることがアピールされているんですが、こういうのが入っているということ自体が非常にしらじらしいですね。僕は動物がそんなに好きじゃないのでいいんですけど、動物好きの嫁なんかには到底この映画は薦めることができません。
この映画の監督と脚本家は、菊池凛子で有名な「バベル」で有名な人ですね。僕は「バベル」の日本人の描き方には非常にムカついていたので、このコンビにはかなり悪印象を抱いていたのですが、「アモーレス・ペロス」を見るかぎり才能は認めざるをえませんね。しかし「バベル」は結局アカデミー賞は作曲賞しか獲れなかったんですね。あの盛り上がりはなんだったんでしょう。
<アモーレス・ペロス 解説>
メキシコシティ。ダウンタウンに住む青年オクタビオは、強盗を重ねては放蕩を続けている兄ラミロの妻スサナを密かに恋していた。ラミロの仕打ちに苦しむスサナもオクタビオには悩みを打ち明けるのだった……。スペインからやってきたモデル、バレリア。仕事も成功し、不倫相手のダニエルも妻と別居し、2人はマンションでの新たな生活を始めるのだったが……。初老の殺し屋エル・チーボのもとに新たな仕事の依頼が舞い込む。エル・チーボは殺す相手の行動を観察する一方、昔捨てた自分の娘の後を追い、こっそり家に忍び込む……。
ロック、ストック
&トゥー・スモーキング・バレルズ
大勢の登場人物さえ把握できれば誰が見ても面白い映画
監督/ガイ・リッチー
出演/ニック・モラン、ジェイソン・ステイサム、
ジェイソン・フレミング
(1998年・英)
ロンドンの下町で暮らしているエディは、カードの腕前には自信を持っていました。ある日彼は、ベーコン、トム、ソープという3人の友人に、ポルノの帝王と呼ばれるギャングのハリーにカード勝負を挑むという儲け話をもちかけます。仲間達はエディのカードの腕を信じ、4人で10万ポンドを用意し、それを元手にエディはカードゲームの会場に乗り込みました。しかし、海千山千のハリーのイカサマにはまってしまったエディは、手持ち金以上の50万ポンドも負けてしまいます。大きな借金を背負ったエディ達にハリーは、1週間以内にカードで負けた金を支払わなければエディ達の指を詰め、それでも返さないときはエディの父親のバーを取り上げると言い放ちます。借金を返すあてのないエディ達4人は知恵を絞り合いますが、これといった名案は出てきません。しかし、エディが住むアパートの部屋の壁から、隣人の強盗計画が聞こえてきたことから、事態は思わぬ方向に転がり出します。
この映画はかなり面白かったですね。第一に、脚本の完成度が非常に高いと思います。2丁の銃と麻薬と大金を巡って、主人公達4人組、主人公達を陥れたマフィアとその用心棒、コソ泥コンビ、麻薬の栽培をしている金持ち坊ちゃんグループ、強盗を計画しているグループ、子連れの取立て屋、麻薬王の黒人ギャングとその手下達、などかなり多くの登場人物が入り乱れて、色々な騒動が起こります。
それぞれが自分の思惑で動き、その行動が思わぬところで交錯し、複雑に絡まりあいながらストーリーが進んでいき、ラストはスッキリ、という感じの話で、もちろんラストに向かってパズルが完成していくような面白さもあるんですが、僕が何よりもこの映画の脚本が面白いと思ったところは、それぞれの人間の思惑が微妙にかみ合っていないところです。そのズレのせいで、真剣に何かやればやるほどドツボにはまっていくヤツらもいれば、望んでもいないのに貴重な物を偶然手に入れるヤツもいる。そのような全体に漂うユーモアがこの映画の個性であり、良さだと思います。
そして、何だかんだいってラストが勧善懲悪になっているところや、登場人物がみんなどこかヌケてるところ、殺人シーンなどの生々しい描写がないところなども、この映画が好感の持てる作品になっている理由だと思いますね。一歩間違えればご都合主義のバカバカしいだけの映画で、特に感動とかはないし、人生にも何の影響も与えない映画なんですが、見た後は非常に気分がスカッとします。
脚本以外の面でも、カメラワークからは作り手側のこだわりが伝わってきますし、音楽と映像の組み合わせ方も素晴らしいです。作品全体のテンポもいいので、面白いだけでなくかっこ良さも兼ね備えている映画だと思いますね。舞台となるイギリスの下町の雰囲気もなかなかいいんじゃないでしょうか。清濁のエッセンスが飽和せずに渦巻いている、混沌とした感じです。こういうところで暮らす人たちは、本当に地に足つけて生きているなあと思いますからね。それを演じる役者達も素晴らしいです。はっきり言って美男子ではないんですが、全員が適役と納得できるぐらいのいい面構えをしています。
まあ、主要な登場人物が今思い出しただけでも20人以上いて、一人一人きちんとキャラクター付けがされていたかというとさすがにそうでもないのですが、その中でも、自分のことは棚に上げて子どもが汚い言葉を吐くとすぐ注意する取立て屋や、本当にマヌケなコソ泥コンビなんかは、ユーモラスでいい味出していると思いますよ。主人公の4人組はあまり目立っていないんですが、「何もしていないのに、自分達があずかり知らないところで何かが起こり、結局はうまいこといった。」みたいな役割でこれはこれで面白いし、いいと思います。
というわけでこの映画はかなり気に入りました。僕はこの映画を見て「パルプ・フィクション」に似ているなあと思ったんですが、その「パルプ・フィクション」よりも好きですね。ちょっときっちりまとまりすぎていて、スケールが小さく見えてしまうところだけがマイナスでしょうか。評価は★9です。
ちなみに僕はこの映画を妹にも薦めてみたのですが、彼女の評価は芳しくありませんでしたね。登場人物が多いので見分けがつかず、誰が何をやっているのかがわからなかったので、結局話もわけがわからんかったそうです。まあたしかに、ボーッと見るには不向きな映画ですね。しかし、登場人物とその相関性さえ把握できれば、男だろうが女だろうが誰が見ても面白い映画だと思いますよ。登場人物は男ばっかりで非常に男臭い映画ですが。
<ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ 解説>
本作で一躍名を成したイギリスの俊英、ガイ・リッチー監督・脚本によるクライム・ムービー。一攫千金を狙う4人の若者を軸に、ギャングやマフィアを入り交じって繰り広げる群像劇を独特のユーモアを交えて描く。巧妙なストーリー展開やテンポある演出に加え、多彩な登場人物が見せる妙な味わいが秀逸。ロンドンの下町に生きるエディはある日、仲間3人から金を集め、ギャンブルに投資するが惨敗。逆にその元締めに多額の借金を背負ってしまう。返済猶予は一週間。途方に暮れるエディたちだったが、彼らは偶然隣人の強盗計画を耳にする。