どっちかといえば松本人志が好きな人。
バタフライ・エフェクト
人間ドラマとして主人公の成長をきちんと描いています。
監督/エリック・ブレス、J・マッキー・グルーバー
出演/アシュトン・カッチャー、エイミー・スマート、
ウィリアム・リー・スコット
(2004年・米)
一時的なブラックアウトにたびたび陥る主人公のエヴァンは、ある日、自分のつけている日記を読み上げることで、記憶が抜け落ちているその時に舞い戻り、過去を変えることができるという力に気づきます。彼はその力で、悲惨な人生を送りあげくに自殺した幼なじみのケイリーを救おうとします。
この映画は文句なしに面白いです。大きな賞レースに参加したわけでもないし、キネマ旬報の評価も低いですけど。あまり作品としての重みを感じさせない映画だからでしょうね。これはこれで脚本もかなり丁寧に作りこまれていると思いますし、中途半端な出来で重苦しいテーマの史実物やドキュメンタリーを見るよりはこういう娯楽作を見た方がよっぽど心にも身体にもいいと思うんですけどね。
僕は元々タイムスリップやブラックアウトを題材にした映画が好きですし、「もしあの時違う決断をしていたら、どんな人生になっていただろう?あの時に戻って人生をやり直したいなあ。」という思いも人より強い、こういう映画を見るのにまさにうってつけの人材です。だからかなり期待して見たんですが、期待を裏切られなくてよかったです。
ちょっと前に見た「ドニー・ダーコ」も同じようなタイムスリップ物でしたが、あっちは難解すぎて僕の頭ではついていけませんでした。この映画は面倒な理屈抜きに人間ドラマとして充分楽しめます。主人公が時間軸を行ったり来たりするんですが、決して構成は難解ではなくストーリーを追うのに苦労しません。そしてストーリーも最初から最後までスリリングな展開で見てて飽きないです。
そして何よりもこの映画の最も素晴らしいのは主人公の最後の決断ですね。主人公は何回も過去に行って未来を変えるために頑張るんですが、何回やっても上手くいかなくて泥沼状態になり、彼自身と彼の大事に思っている人達がみんな幸せになる未来なんて存在しないことを知ります。そして彼はある決断をするんです。この決断がこれ以上ないぐらい悲しくて切ないんですが、達成感も伴う決断なんです。僕が先ほどこの映画を「人間ドラマ」として面白いと言ったのは、そういうところからです。主人公の成長をきちんと描いていると思いますよ。
それにこの映画の大きなテーマの1つは初恋ですしね。初恋ほどほろ苦いものはないです。だから主人公にも自然に感情移入できます。
しかし、ケチをつけるところがないわけではないです。まず、DVDに入っている2つの別エンディングです。前に別の映画の感想で言いましたが映画を1つの作品として捉えるにあたってこういう特典は非常にうっとうしいです。おまけにこの2つのエンディングの出来がとんでもなく悪いですからね。こんなしょうもないエンディングはずっと封印しとけと言いたいです。
あと、主人公がたくさん生み出したパラレルワールドはどうなったんだという疑問が残ります。僕がリスペクトする藤子・F・不二雄先生の作品「のび太の魔界大冒険」では、魔法に憧れるのび太がもしもボックスという道具で魔法の使える世界を生み出してしまうんですが、その世界は魔王は出るわ魔物は出るわのとんでもない世界で、おまけにもしもボックスはママが粗大ゴミに出してしまい元の世界にも戻れないという窮地に立たされます。そんなのび太たちの所にドラミちゃんが助けにきて、もしもボックスを出し、さあ元の世界に戻れる、万事解決かな、と思わせます。しかしドラミちゃんの「魔法世界は魔法世界でパラレルワールドとなり元の世界とは別々に事が進む。」という説明を聞いたのび太たちは、「魔法世界の人々は魔物の脅威にさらされ続ける。それでは真の解決にならない。」という思いから再び魔法世界に向かうのです。
どちらの作品の主人公の行動がより納得できるかは言うまでもないと思います。まあ、この映画がダメというわけではないんですけどね。何回も過去に戻って未来を変える行為なんて倫理的に良くないというのはこの映画の主人公も分かっていることだと思いますし。「のび太の魔界大冒険」よりは、ちょっと胸にもやもやが残るかなというぐらいです。点数は★9とします。それも限りなく満点に近い★9です。
<バタフライ・エフェクト 解説>
過去に戻って現在、未来の出来事を変えることができる青年を描いたSFスリラー。『ジャスト・マリッジ』のアシュトン・カッチャー主演作。共演は『ラットレース』のエイミー・スマート。ノンストップで繰り広げられるストーリー展開と驚愕のラストは必見。
幼い頃、ケイリー(エイミー・スマート)のもとを去るとき、エヴァン(アシュトン・カッチャー)は、「君を迎えに来る」と約束した。だが時は流れ、ケイリーとエヴァンは全く別の道を歩んでいた。