どっちかといえば松本人志が好きな人。
ALWAYS 三丁目の夕日
「終わってほしくない」と思わせる見てて心地よい映画
監督/山崎貴
出演/吉岡秀隆、堤真一、小雪
(2005年・日)
昭和33年の、東京の下町「夕日町」で暮らす人々を描いた話です。鈴木則文が営む「鈴木オート」という小さな町工場に、田舎から集団就職でやって来た六子が住み込みで働くことになります。しかし六子はボロくて小さな町工場にがっかりです。また、鈴木オートの向かいで駄菓子屋を営みながら細々と文筆業もしている茶川は、行きつけの飲み屋のおかみに頼まれ淳之介という子どもを預かることになります。
この映画の原作者である西岸良平は、僕がかなり好きな漫画家なんです。この映画の原作となっている「夕焼けの詩」はもちろんのこと、「鎌倉ものがたり」、「たんぽぽさんの詩」、「ポーラーレディ」、「赤い雲」、「タイムスクーター」等この人の作品はほとんどと言っていいぐらい読んでいます。僕みたいに原作を先に読んでいて後から映画を見た人というのはたいていその映画をけなすものなんですが、この映画はちょっと違いましたね。原作ファンの僕が不満を何一つ漏らさないぐらい素晴らしい出来です。
僕はせっかちなので、そこそこいい映画でもけっこう時間を長く感じてしまいます。しかしこの映画は2時間を超える長尺の映画なのに「終わってほしくない。」と思わせる映画なんです。小さい頃テーマパークなんかに行って、本当に楽しくて、楽しいからこそ時間が経っていくのがイヤでイヤで仕方がないというあの感情ですね。それぐらいこの映画は見てて心地良いです。こんなことを思わせる映画なんてほんとに少ないですよ。映像やストーリーや演出などすべて含めて「昭和30年代」というテーマパークを見事に再現しています。
もちろん僕もバカじゃないので、実際の昭和30年代がここまで心地よい世界ではなかったことは分かります。しかしそんなことはどうでもいいんです。僕は実際に昭和30年代を生きたわけではないし、ファンタジー映画としてこの映画を楽しんでいましたから。まあそうは言いながらも、日本人が失ってしまったものがこの時代には確かにあったんだというノスタルジックな気持ちはちょっとは生まれてしまうんですけどね。それは僕が日本人だからでしょう。
まあ、よほど人情喜劇や懐古主義が嫌いな人でないかぎり、この映画は心の琴線に触れてくると思いますよ。僕は不覚にもこの映画では涙を流してしまいましたから。今まではどんな感動作を見ても涙ぐむぐらいはあっても涙を流すというのはほとんどなかったんですけどね。僕が年をとって涙腺がゆるくなったせいもあると思いますが、淳之介を演じた須賀健太は恐るべき逸材だなあとつくづく思いました。僕が泣いてしまったのは淳之介の父親が茶川の家にやって来るエピソードですからね。
茶川役の吉岡秀隆はあまり好きな俳優ではないんですが、この映画に限って言うならば彼の演技力は素直に認めざるをえないです。漫画では茶川は老人なのではじめは違和感があったのですが、途中からはまったく気にならなかったです。同じように堀北真希演じる六子も漫画では「六さん」と呼ばれる男なのですが、こちらも気になりませんでした。僕の妹はこういう漫画とキャラ設定が違うところにムカついて見るのを途中で止めたと言っていましたが、僕は別に映画の設定でもいいと思いますね。若くてきれいな女性なんかまるで出てこない漫画なので、せめて映画にするなら堀北真希ぐらい出しとかな華がなさすぎるやろとも思いますし。
しかし、小雪は間違いなくミスキャストですね。この人だけが最後まで違和感がありました。まあ、この映画の完成度に比べたら小さなことです。点数は満点です。
この映画のストーリーはほとんど漫画と同じですから、原作に助けられた面はあると思います。漫画にはないエピソードである「見えない指輪」の話は面白くなかったですし。しかし、漫画の短い話を自然に繋げている点は感心したし、クライマックスの夕日の映像の出来も良かったですし、監督の手腕もなかなかのものだと思います。というより、涙を流すぐらい感動してしまった以上、満点をつけないとしょうがないですね。
<ALWAYS 三丁目の夕日 解説>
昭和33年の古きよき日本を舞台に、家族の触れ合いを描いた心温まる人情ドラマ。下町の住民たちには、吉岡秀隆、堤真一、小雪、薬師丸ひろ子ら豪華メンバーが集まり、昭和の雰囲気を存分にかもし出している。『Returner リターナー』などVFXを使用した作品の多い山崎貴監督が、本物に引けを取らないほど美しい夕焼けを作り出すことに成功した。ほかにも建設途中の東京タワーなど、当時の日本が忠実に再現されている。
東京下町の夕日町三丁目に住む鈴木家に、集団就職のために上京してきた六子(堀北真紀)が住み込むことになる。また鈴木家の向かいにある駄菓子屋の店主(吉岡秀隆)も、見ず知らずの少年の面倒を見ることに……。
ソウ3
このシリーズはいけない方向に進んでいっています。
監督/ダーレン・リン・バウズマン
出演/トビン・ベル、ショウニー・スミス、アンガス・マクファーデン
(2006年・米)
ジェフは目覚めると箱の中に閉じこめられていました。そこにはテープレコーダーがあり、再生すると、ジェフに復讐の機会を与えるといった内容の声が流れてきました。復讐の相手とは、かつて彼が自分の息子を失ったひき逃げ事故に関係する人物達でした。同じ頃、ジグソウと同じ部屋にいる脳外科医のリンは、首に特殊な機械をはめられたうえで、脳腫瘍に冒されたジグソウを助けるよう告げられます。その機械はジグソウが死ぬと同時に爆発する仕掛けなのです。
僕はこのシリーズは「1」、「2」、「3」と律儀に全部見てきましたが、「3」は格段に面白くないですね。何が原因なんでしょうか。僕がこのシリーズに飽きただけのか、脚本のレベルが下がったのか、おそらくその両方なんでしょう。このシリーズの点数を順に言うと、9、7、3といったところです。平均するとまだ6点を超えているので、「4」がもし公開されたらやはり見てしまうと思いますけど。
おまけに「3」はとにかくグロいですからね。どうもこのシリーズはだんだんいけない方向に進んでいっていますね。続編が出るたびにグロさが増していっています。そういう映像を見たいからこのシリーズを見ている人はおそらく少数派だと思うんですけどね。みんな僕と同じように「1」の斬新なプロットと衝撃的なラストに感動したから「2」、「3」と見ているんだと思いますよ。
「3」のラストは本当にしょうもないですからね。もちろん「1」、「2」と同じくラストにあっと驚く展開は用意されてるんですが、少なくとも僕のリアクションは「あっ!」ではなく「はいはい、わかったわかった。」でした。
ジグソウも「2」までは悪役なりの魅力があったんですけど、この映画では全然ダメです。今回のゲームは「赦し」というテーマですから、いよいよ死が間近になってきたジグソウが何がやりたいかというのはだいたいわかるんですけど、ただの自分勝手なジジイに見えてムカついただけでした。このシリーズと同じくこいつ自身も自分を見失ってるんでしょう。
「3」ではたくさん登場するアマンダも、ジグソウとは違って美学のない悪役という設定なのである程度悪く描かれるのはしょうがないですが、本当に何の魅力もないキャラクターです。他のキャラクターはまったく個性がないですしね。
ただ、この映画は「1」や「2」の謎を明かしていくような作りになっていて、このシリーズを「1」、「2」、「3」と律儀に見てきた僕にとってそういうきっちりしたところはうれしいですね。たぶん「3」をいきなり見た人よりは断然この映画を楽しんだと思います。それでも点数は★3なんですけどね。
しかし「2」の感想で僕はゴードン医師が「3」では重要キャラになると予想していたんですが、その予想は大ハズレでしたね。まあ、「4」こそは大活躍すると思います。
<ソウ3 解説>
斬新なアイデアと巧みなストーリー展開が話題を呼び、世界的大ヒットを記録したサスペンス・スリラー『ソウ』シリーズ第3弾。密室に監禁された者たちが凄惨(せいさん)なゲームに翻ろうされ、究極の恐怖を体感する。シリーズを生み出したジェームズ・ワンと、リー・ワネルのコンビが原案と製作総指揮を務め、前作に引き続きダーレン・リン・バウズマンが監督を担当。想像を絶する恐ろしい死のゲームの行方や、ついに明かされるジグソウの謎と運命に注目。
殺人現場に呼び出された女刑事ケリー(ディナ・メイヤー)は、鎖に繋がれ、爆弾で飛び散った死体を目撃する。死体が行方不明の同僚ではなかったことに彼女は胸をなでおろすが、ジグソウはもう動けないはずだったことから、誰の仕業なのか疑問を抱く。その夜、ケリーは何者かに拉致され、気がつくと地下室に監禁されていた。
NHKのTVドラマレベルの映画だが、昭和を感じさせる。
監督/深川栄洋
出演/鈴木達也、大野真緒、増田怜奈
(2005年・日)
主人公の大田明の町に見せ物小屋がやって来ます。明は学校や親から見せ物小屋に行ってはだめと言われますが、見世物小屋に興味津々です。ちょうどその頃明のクラスには、可愛くて頭も良くスポーツもできオシャレな転校生の手塚留美子がやって来て、あっという間にクラスの人気者になります。また、クラスには、家庭が貧しくいつもいじめられている小室秀子という女の子がいましたが、この子が見世物小屋に出ているではないかという噂が広まります。
おそらく予算があまりない映画なんでしょう。画面から手作り感がにじみ出てきます。映画を見ているような気がしませんでしたよ。NHKのTVドラマぐらいのレベルじゃないでしょうか。色々な小道具で昭和を再現することに頑張っているのはすごく分かるんですが、全体を見たらどこをどう見ても平成のこの世の中で撮影しているのが分かります。
ストーリーもNHKのドラマっぽいですね。これ以上ないぐらいベタな展開です。開始5分でラストの映像が目に浮かびます。出てくる子どももいじめっ子も含めてみんな根はいい子ばかりですしね。自分の小学校時代を思い返すと、周りに冷酷な奴は何人もいたんですけど。
しかし、なぜか嫌いにはなれない映画です。「三丁目の夕日」が流行っているところからも分かるように、みんな現代社会を生きるのに疲れていて、こういうノスタルジックな映画を求めているのでしょう。貧乏臭い映像もいいように考えたら温かさが感じられるし、昭和の空気を自然に演出しているともいえます。
この映画の鍵になっている「見世物小屋」は、僕は小さい頃に一度だけ見かけたことがあります。僕は怖がりだったので中には入らなかったのですが、おどろおどろしい印象は今でも記憶に残っています。この映画はなかなかいい題材に目をつけたなと思いますよ。アレは子どもにはかなりインパクトがありますから。そういえば見世物小屋はあれ以来まったく見かけないですね。たぶん僕が小学校に入る頃にはなくなってしまったのでしょう。何であの時入っておかなかったんだと今になってすごく後悔しています。
あと、この映画は男女の描き方がいいですね。間違いなく明は手塚留美子のことが好きですが、そういう態度を一切彼女の前では出しません。僕も小さい頃可愛いなと思っていた子が何人もいて、それなりに仲良くなった子もいたのに、どうして好きだと言わなかったのかこれまた後悔しています。しかしそれが昭和の小学生のいいところですね。僕の小学校時代はギリギリ昭和でしたし。今の小学生の好きな異性への態度がどんなものなのかは分かりませんが。
また、明の母親は編みものの腕を見込まれて手芸店の社長にスカウトされ、カルチャー教室の講師をはじめるんですが、子どもたちとは対照的にこの母親と社長の描写が実にエロさを感じさせていいです。もちろんNHKのTVドラマなのでエロ描写なんて一切ないし、その事実を裏付けるセリフもないんですが、汚れた大人の僕の視点では間違いなくこの2人はただならぬ関係です。社長役は西岡徳馬ですしね。この人をチョイスするということはそういう想像をしろということでしょう。
まあこの映画の点数はおまけして★6としましょう。主題歌も良かったですし。この映画の主題歌がアジアンカンフージェネレーションとかだったら怒りますけど、ちゃんとアコースティックギターの古くさいメロディーの曲でした。
<狼少女 解説>
『紀雄の部屋』の深川栄洋監督が、口裂け女や火吹き男の“見せ物小屋”を通して昭和という時代をノスタルジックに描いた感動作。半ズボン姿もバッチリの『風の残響』の鈴木達也や、東京電力のCMで人気の大野真緒ら子役が大活躍。大塚寧々や田口トモロヲ、手塚理美など個性的な面々と見事なコンビネーションを見せる。ほろ苦い初恋の味、早く大人になりたくてもがいていたころの自分の分身を垣間見せてくれる。
小学4年生の明(鈴木達也)のクラスに才色兼備の少女、留美子(大野真緒)が転校して来る。同じころ、街にやって来た見せ物小屋に出ている狼少女がいじめられっ子の秀子(増田怜奈)だという、うわさが立ち始める。
フォーン・ブース
そこそこ楽しめるが、1,800円は絶対に出せない映画
監督/ジョエル・シューマカー
出演/コリン・ファレル、フォレスト・ウィッテカー、ラダ・ミッチェル
(2002年・米)
ニューヨークのタイムズスクエアの電話ボックスで、自称一流のパブリシストのスチュ・シェパードは、売出し中の女優パメラとの電話が終わった後、不意に鳴った電話ボックスの電話に出てしまいます。その電話からは「電話を切ったら殺す。」との声が聞こえました。それは苛酷なゲームの始まりでした。
ストーリーはそんなに面白いとは思わないですが、臨場感は圧倒的なものがあり、主人公の緊張感がそのまま伝わってきてかなりハラハラドキドキします。映画はしょせんひまつぶしであると考えるとかなり高水準の映画です。舞台は1つの電話ボックスとその周辺のみというかなり限られた空間で、ほぼ会話だけで物語が進行していく映画なのに、まったくだれることはないですからね。
主人公演じるコリン・ファレルの演技も見事です。この映画は全編会話劇で相手は電話の声だけだからほとんどコリン・ファレルしか映っていないですからね。間違いなく彼がコケたらこの映画はダメになるでしょう。そんな重要な役どころを彼は見事にこなしたと思います。
ただ、この映画が傑作かというと、間違いなくそうじゃないと言い切れます。何せオチがないですからね。犯人がなぜ主人公にこんなむごいことをするのかは、最後まで見てもまったくわかりません。犯人と主人公の関係性をまったく描いてないですからね。たしかに主人公は軽薄で傲慢なイヤな奴なんですが、この程度のイヤな奴なんて世の中なんぼでもいるし、何でこいつだけこんな目に遭わなあかんのかとまったく納得できないラストですね。
もしこの映画の監督が、「謎は謎のままあえて残したんや。主人公に降りかかる不条理な不幸を描いたんや。」と言うならば、もちろんその考え方自体は間違いではないんですが、今度は作り方を見直してほしいですね。変に画面を分割したりする安っぽい映像や、現場の警察の無能な動きは、いかにも安っぽいTVドラマですからね。「謎」や「不条理」というテーマで真っ先に思いつく映画としては「CUBE」がありますが、あの映画は余計な描写や小手先の技術は一切ありませんでした。それが逆にあの映画のスケールを大きなものに見せています。この映画はコリン・ファレルのギャラだけで「CUBE」の全制作費を超えていると思いますが、どこか安っぽく見えますからね。
あと、この映画を何の予備知識もなしに見た人は、100人中99人が序盤で出てくるピザ屋のおっさんを疑うと思うので、犯人探しの面でも楽しめると思うんですが、僕のようにキャスティングを見てからこの映画を見た人は、100人中100人がなかなか登場しないキーファー・サザーランドを疑うと思います。だから「今まで出てきた奴らの誰かがもしかすると…」というミステリーをまったく楽しめないんです。こういうところで監督のセンスを疑いますね。別に犯人を演技力が確かな無名の役者が演じてもいいと思うんですけど。
というわけで点数は★5ぐらいですかね。レンタルビデオ屋でDVDを借りて見たので、出費としては200円ぐらいだからこその点数です。映画館で1,800円払って見てたらもっと低いと思いますね。あくまでもひまつぶしとして楽しむための映画ですから。
この映画は尺も81分とかなり短いですからね。これで1,800円は間違いなく損した気分になると思います。劇場の大画面で見たいようなド迫力の派手なアクションシーンもないですし。
<フォーン・ブース 解説>
マンハッタン、タイムズスクエア。自称一流のパブリシスト、スチュは、今日もアシスタントを従え、携帯電話からクライアントや業界に口八丁でビジネスをまとめ上げている。そんな彼はアシスタントと別れた後、1台の電話ボックスに立ち寄り、結婚指輪を外してクライアントの新進女優パメラに電話を掛けた。スチュは彼女をモノにしようとしていたが、上手くいかずに受話器を置く。その刹那、今使っていた公衆電話のベルが鳴り、思わず受話器を取ってしまうスチュ。すると電話の主は、“電話を切ったら殺す”と脅迫してきたのだった…。
ブギーナイツ
「マグノリア」よりはかなり落ちるが嫌いにはなれない映画
監督/ポール・トーマス・アンダーソン
出演/マーク・ウォールバーグ、バート・レイノルズ、
ジュリアン・ムーア
(1997年・米)
ロサンゼルス郊外のディスコで皿洗いのバイトをしていた主人公のエディ・アダムスは、見た目も中身も普通の17歳の高校生ですが、ひとつだけ他の人と違うところがあって、それはあまりにも巨大なイチモツを持っていることでした。ある日、エディはポルノ映画監督ジャック・ホーナーにポルノ男優にならないかとスカウトされます。実家を飛び出してポルノ業界に飛び込んだエディは次々と主演作をヒットさせ、またたく間にポルノ業界のスーパーヒーローに登り詰めていきます。
この映画と同じ監督の作品で、昔に見た「マグノリア」はこれ以上ないほど良かったのですが、こっちはそんなに面白くなかったですね。でも、「マグノリア」と同じように、そこはかとなく人の優しさや温かさを感じることのできる、非常に見てて心地よい映画です。
大きなイチモツを武器にポルノ業界で成り上がりその後転落するエディが主人公で、一応は彼の成長を描いたストーリーなんですが、それ以外の登場人物の話にもかなり時間をさいており、ポルノ業界の人達の群像劇のようになっています。彼らはみな魅力的ですね。どいつもこいつもいい加減に生きとるなあとも思いますし、アンダーグラウンドな世界でしか生きることができないかわいそうな人達だなあとも思いますし、みんな固い絆で結ばれていてうらやましいなあとも思いますし、結局何が言いたいのかわからないですが、とにかく魅力的に映るのは間違いないです。
彼らはいくら頑張って成功しても、しょせんはアンダーグラウンドな業界なので、決して社会から認められることはありません。銀行は金を貸してくれないし、「教育上悪影響」ということで子どもの親権争いにも負けます。だからみんな劣等感を抱えながら生きています。それでも業界に活気があるうちは自分達の属する小さな世界の中でだけでも自尊心は保てたのですが、時代の変化でポルノ業界自体が衰退していき、それすらも無くなっていき、彼らの人生はより痛々しいものとなります。
ただ、この映画は、決して彼らの転落を描いて終わるのではなく、一時代を共に過ごした仲間の絆は決してなくなることがないという救いも描いています。暗闇の中でひとつ明かりがともった気がして、ホッとしましたよ。これからはそれぞれ違う道を生きていき、それぞれまた挫折をすることもあるだろうけど、何とかなるんじゃないかなと思わせてくれます。僕はこの映画を見た時は精神的に安定した時期でしたが、落ち込んでる時に見たらもっと感動したんじゃないかなと思います。
演じる役者もみな良かったですよ。なかなかクセ者揃いでした。主演のマーク・ウォールバーグは、演技うんぬん以前に安っぽい雰囲気がこの役に合っていましたね。ただ、やはり一番素晴らしかったのはバート・レイノルズですね。強烈な父性を醸し出していましたよ。僕はこの人は名前だけ知ってるけども出てる映画は見たことがなかったんですが、さすがの存在感です。
そういうわけで僕の好きな題材で演者も良くて音楽や映像など雰囲気もいい映画です。しかし点数は★5ぐらいですね。やはりまったりしたテンポとベタな展開が見てて退屈でした。
日本でもAVや「にっかつロマンポルノ」を題材にしたこんな映画を作ってほしいですね。「絶対にこういう業界に足を踏み入れたらダメだな」と思わせるドキュメンタリー番組なんかでよくあるただ暗いだけの作品ではなく、どこか哀しくどこか笑えて、こういう業界も悪くないかなと思わせる作品です。ひと昔前に「プラトニック・セックス」がありましたが、どう考えてもあれは僕の知っているAV業界の知識から考えるとウソくさいですし。
<ブギーナイツ 解説>
時は1977年。ディスコで皿洗いのバイトをしているエディ・アダムスは、その巨大な男性自身からポルノ映画監督のジャック・ホーナーにスカウトされる。エディが飛び込んだポルノ業界では麻薬に溺れて息子の親権を手放したポルノ・クイーンや、色情狂の妻の浮気に悩まされるマネージャーやゲイの男など、さまざまな人間が存在していた。やがて芸名をダーク・ディグラーとしたエディは、次々と主演作をヒットさせ、またたく間にポルノ界のスーパー・ヒーローに上り詰めていくのだが……。70年代後半のポルノ産業を舞台にした辛辣な人間ドラマ。