どっちかといえば松本人志が好きな人。
イン・ザ・プール
主人公の伊良部医師は最高の名医だと思いました。
監督/三木聡
出演/松尾スズキ、オダギリジョー、市川実和子
(2005年・日)
この映画は、田辺誠一が演じるプールへの依存症があるエリートサラリーマン、市川美和子が演じる確認行為についての強迫性障害のフリーライター、オダギリジョーが演じる持続勃起症の営業マン、という3人の患者が、松尾スズキ演じるかなりとぼけた精神科医伊良部のもとへやってきて、ふざけた治療を受けるハメになってしまう話です。
以前に「亀は意外と速く泳ぐ」という作品を見てなかなか良かったので、同じ監督のこの映画もビデオ屋で借りてみたのですが、こちらも同じぐらい良かったですね。この映画は原作があるらしく、そっちは僕は読んでいないんですが、ここまでトボけた作品ではないと思います。「亀は意外と速く泳ぐ」もそうですが、体から力が抜けてしまうぐらいのくだらなさ、そして不思議な温かさと見た後の爽快感は間違いなくこの監督の持ち味ですし、この映画も監督の持ち味が存分に発揮された作品です。
まず精神病を題材にしているところがあっぱれですね。ちょっと世間でタブー視されているものですし、そういうテーマを扱った本やドラマやドキュメンタリーで軽いノリのものを僕は今まで見たことありません。しかし、この映画の主人公である伊良部医師は、かなり無責任でいいかげんなキャラです。3人の患者の持つ心の病に対して決して深刻になることなく、明るく軽いノリで治療を行います。治療方法もふざけているようにしか見えません。
しかし僕は、伊良部がただのバカとは思えませんね。それどころか、すべて計算で動いている最高の名医なんじゃないかと思いました。一般的に考えて精神科に行くというのはけっこう勇気がいることですが、実際に勇気をふりしぼって行ったらこんないいかげんなオッサンが出てきて、自分の病状についてもふざけた受け止め方しかしてくれないんです。患者は怒るというよりも、脱力感でいっぱいになると思いますよ。そうやって患者をリラックスさせることこそが伊良部の狙いなんでしょう。また、ユーモアたっぷりの治療も、このオッサンが患者の張り詰めた気持ちを解きほぐすことを第一に考えているからだと思います。
これはただの僕の独りよがりの仮説ですが、けっこう当たっていると思いますよ。何だかんだ言って3人の患者が全員快方に向かっているのが何よりの証拠です。ストレスと笑いに深い関係があるのも生物学的に当たり前のことですしね。
まあ僕の仮説はともかく、この映画には、普通じゃないなんていう悩みは誰もが何かしら抱えていることであり、そんなこと特に深刻にとらえる必要もないし、楽しく生きたらいいじゃないか。それに心の病気なんて、ふとしたくだらないことで治ったりしちゃう軽いものなんだよ、という前向きなメッセージがあります。これは現代のストレス社会にとってはかなり重要なメッセージだと思いますよ。
僕のこの映画の評価は★8です。この映画は、随所にちりばめられている笑いは「亀は意外と速く泳ぐ」と似たようなもので相変わらずくだらないし、構成もかなり無造作で1本の映画としてのまとまりもないし、テンポも全体にまったりしていて緩急も盛り上がりもないし、賞を獲ったり後世に残る名作でないのは確かですが、僕は好きですね。精神病棟で看護師として勤める僕の妹もこの映画は絶賛していましたから、ただの軽いノリだけの映画ではないとは思いますよ。
ちなみにラストシーンは映像的にもきれいですしインパクトもありますし、かなりいい感じですね。映像的にいいと思ったのはこのシーンだけですが。
<イン・ザ・プール 解説>
奥田英朗が直木賞を受賞した人気小説「空中ブランコ」の主人公、精神科医の伊良部が大活躍する「イン・ザ・プール」を三木聡監督が映画化。主演は松尾スズキ、共演はオダギリジョー、市川実和子、田辺誠一。原作のテイストをそのままに随所に笑いが散りばめられたエンターテイメント・ムービー。
中堅メーカーに勤務する営業マン・田口(オダギリジョー)は、ある日突然、継続性勃起症になってしまう。一方、ルポライターの岩村(市川実和子)は家のガスの元栓を閉めたかということから始まり、確認行為の慣習化による強迫神経症になる。そして田口と岩村は伊良部総合病院の精神科に通うはめになり……。