どっちかといえば松本人志が好きな人。
鬼が来た!
日本兵の描写に説得力のある、究極の反日映画
監督/チアン・ウェン
出演/チアン・ウェン、香川照之、チアン・ホンポー
(2000年・中)
第2次世界大戦末期の話です。中国・華北の掛甲台村に住む主人公マー・ターサンは、ある深夜、「私」と名乗る謎の男に強引に2つの麻袋を押しつけられます。それぞれの麻袋には日本兵の花屋小三郎と通訳の中国人トン・ハンチェンが入れられていました。マーは「私」に彼らを晦日まで預かるように脅されていたのですが、その時がきても「私」は姿を見せません。当初攻撃的だった花屋も、時が経つにつれだんだんと村人に心を開いていきます。
松本人志の「シネマ坊主」で絶賛されていた作品です。「シネマ坊主」によると日本人を悪く描いて中国人を英雄のように描いているよくある反日思想だけで作られた愚かで薄っぺらい映画ではなさそうだし、たまたま嫁はんがビデオ屋で借りてきたこともあって、普段中国映画なんてまったく見ない僕も見てみることにしました。驚きましたね。たしかに典型的な反日映画の枠ははるかに超えていて、普段中国人の作るものに悪態ばかりついている僕も容易に語ることのできない映画です。しかし、究極の反日映画とも言えます。
日本兵役にはきちんと日本人キャストを使っています。そして、彼らが演じる日本兵は、外国人が描いたものでよくある典型的な間違ったイメージの日本兵ではありません。傲慢で凶暴で理不尽で見てて非常に格好悪く醜いけれども、人の好さなど人間の持つ良い面も表現されています。複雑で色々な面を持つ一人一人の人間として描かれているので、リアリティを感じてしまい、実際の日本兵はこんなんだったんだなと受け入れてしまいます。それゆえにこの映画での日本兵の行動も現実味を帯びてくるのです。
しかし、だからこそこの映画は問題があるんですね。典型的な反日映画でいくら日本人が悪く描かれ、中国人がよく描かれていても、「ありえへんわ。アホな映画やなあ。」ですみます。しかしこの映画での終盤の日本兵の行ったこと、ラストで花屋が行ったことについて、「ありえへんわ」と能天気に言うことはできません。事実かそうでないかは別として非常に説得力があり、当時実際に日本兵がこういう行動をとったんだと自然に思ってしまいます。特にラストシーンはこちらが何も言い返せないぐらいの衝撃を与えるものです。
「いやいや何を言っているんだ。この監督は極限状態に置かれた人間がどういう行動をとるかということを描いただけだよ。ラストの花屋なんてまさにそうじゃないか。日本兵がどうこうとかそういうことじゃないんだよ。」という感想を持つ人は多いでしょう。僕の周りにこの映画を見た人が2人いますが、2人ともこの映画を中立な映画だと言っていました。しかし、僕はそうは思いませんね。この映画を見て中国人と日本人とどちらを悪く思うかといったらそりゃ圧倒的に日本人でしょう。第二次大戦終了後は日本兵もひどい目に遭わされたと思うんですけどそのへんの描写はないですからね。
この映画は中国国内では上映禁止になったそうですね。本当に中国はバカだなあと思いますよ。この映画こそ理論立てて日本を憎むことが出来る、中国政府にとってかっこうのプロパガンダになり得る作品じゃないですか。まあこの映画は、日本兵よりはマシですが決して中国人もカッコ良くは描いておらず、マイナス要素も含めたリアリティを持った人間として描いているから、中国人も日本人と同様にこの映画の中国人に対して複雑な感情を抱いてしまうんでしょうね。中国政府はそれが我慢できなかったんでしょう。この映画の冒頭に登場する「私」もどう考えても中国側の人間でしょうし。
この映画の点数は★4とします。日本語の発音など細かいところで違和感はあるものの、出来が悪い映画とは思えませんね。この監督は外部からの圧力で自分の表現者としての魂を売ったり、自分の思想や感情を映画に反映させたり、戦争の本質とはまったく異なるエンターティメント性を映画に持たせたりなどをしない人間なのはこの映画を見たらよく分かりますし、戦争映画を作る資格のある映画監督だと思います。ただ、僕はこの映画は好きではないですけど。
ちなみに、この映画での香川照之は狂気が宿っていると言ってもいいぐらい迫力のある素晴らしい演技でした。中国での撮影ですからむちゃくちゃなこともいっぱいあったでしょうし、こんな映画の監督だから演技指導もかなり厳しいでしょう。そのような状況によって精神的に追い詰められた状態で演技をしたのが良かったんでしょうね。
<鬼が来た! 解説>
第2次世界大戦の終結が迫りつつあった1945年の旧正月直前。中国・華北の寒村、掛甲台(コアチアタイ)村。深夜、青年マー・ターサンのもとに“私”と名乗る男が現れ、拳銃を突き付け2つの麻袋をマーに押しつける。中にはそれぞれ、日本兵と通訳の中国人が入れられていた。“私”はそれを晦日まで預かるよう脅して去っていった。マーは慌てて村の長老たちに相談する。もし日本軍に見つかれば村人の命はない。結局約束の日まで2人を匿うことになる。最初、日本兵の花屋は、囚われの身で生きるのは日本軍人の恥、早く殺せとわめくのだったが……。