どっちかといえば松本人志が好きな人。
県庁の星
撮影に使っている建物はおそらく香川県庁でしょう
監督/西谷弘
出演/織田裕二、柴咲コウ、佐々木蔵之介
(2006年・日)
野村聡はK県庁のキャリア公務員です。プライドも出世願望も高い彼は、県事業の目玉である民間企業との人事交流研修のメンバーに選ばれ得意満面です。恋人は地元の大手建設会社の令嬢で、まさに人生順風満帆でした。しかし、いざ配属された研修先は客もほとんどおらず店員のモチベーションも低いとんでもないスーパーで、自分の教育係になったのは自分より年下のパート店員でした。
いきなりですが、僕はある県の職員です。なのでこの映画の行政組織や役人の描き方が非常にステレオタイプで、この監督が県庁という場所とそこで働く職員についてまったく知識がなく、かなり誤解しているのはすごく良く分かりました。しかしスーパーの方も、「こんなスーパーとっくの昔につぶれてるやろ。」というぐらいかなりむちゃくちゃに描かれています。県庁もスーパーも同じぐらい悪く描かれていて公平さという点では問題ないですし、あえてこれぐらい過剰な表現にした方が映画としてわかりやすくていいのかなとも思いますから、「全然違う!こんなんのわけないやろ!」とかイラついたりせず普通に見ることができました。
それに「官」を無条件否定するようなストーリーでもありませんしね。それだったら途中で見るの止めたろとも思ってたんですけど。僕の勤める県でも民間企業との交流事業はありますが、向こうはハナから官に学ぼうという気なんかまったくなくて、やって来る職員のこともバカにしているから、派遣された職員は派遣期間の間延々と単純作業をやらされるのがほとんどです。向こうにとっては、給料は県が払うんだから、すぐに戦力になる単純労働をやらせたら少しは得をするなということなんでしょう。しかしこの映画はある意味理想論である、官が民に学ぶところがあるのと同じように、民が官に学ぶべきところもあるという、公務員が見てもサラリーマンが見ても気を悪くしない話の流れになっています。これでかなり僕の好感度は上がりましたよ。官でも民でも、1人1人が常に自分の仕事に問題意識を持つことが一番大事なことですからね。
ただ、公平さという点でオンブズマンの描き方だけはムカつきましたけどね。県庁やスーパーは極端に悪く描かれているのに、こいつらは非常に良く描かれています。この映画でいわゆる悪役的な存在の人物が、「彼らは何の責任も持たず、批判を生きがいとしている。」とか言うんですが、まったくもってその通りだと思いますけどね。このセリフを仕事に対する意識が変わった後の織田裕二が言ってくれたら良かったんですけどね。
あと、この映画は野村とスーパーの人たちとの心の交流と彼らが力を合わせてのスーパー改革劇がメインなんだから、野村とスーパーの人たちとの別れのシーンで終わるのがどう考えても一番感動すると思うんですけどね。この映画はその後野村が県庁の方を改革しようとする話になって、これも話としては全然悪くないんだけれど、映画全体として見たらこの部分はいかにもとってつけたような感じになっています。僕の気分の盛り上がりはスーパーの改革が終わったところがピークだし、もうその後は集中力が切れてしまっていたから、しまいには話も分からんようになって一緒に見てた嫁はんに話の流れを聞いてたぐらいですから。
ですがまあ、この映画は何だかんだ言って面白かったですよ。公務員の僕がここまで嫌な思いをせずに楽しめるとは想像していませんでした。評価は★8ぐらいはあるんじゃないでしょうかね。
ちなみにこの映画は先日見た「有頂天ホテル」に非常に印象が似ています。娯楽作品としてそれなりに楽しめるところ、フジテレビ色が強い軽いノリの作品であるところ、設定が極端でリアリティがないところ、「有頂天ホテル」は舞台っぽく「県庁の星」はTVドラマっぽい作りでどちらも映画を見てる感じがしないところ、などですね。なのに「県庁の星」の方が評価が1点高い理由は、主要な役者が全員安心して見ていられる演技をしているところです。主要な役者の中では比較的若い柴咲コウも、こういう気が強くて飾り気のない女性を演じさせたら一流ですしね。
どうでもいいことなんですが、この映画で県庁として使われている建物は、いかにも田舎にそびえ立つ県庁という感じだし、役所の建物の雰囲気がプンプンしているので、本当にどこかの県の庁舎を撮影に使っているんでしょう。僕の働く県も田舎なので、県庁舎はこんな感じにそびえ立っていますから良く分かります。K県という設定ですから、神奈川県庁か高知県庁か香川県庁なんでしょうが、神奈川県庁はおそらく都会にあるでしょうから違いますし、高知県庁は僕が実際に行ったことがあるので違うと分かりますし、おそらく香川県庁なんでしょうね。
<県庁の星 解説>
「白い巨塔」など数々のヒットTVドラマを手掛けてきた西谷弘の劇場映画デビュー作は、キャリア官僚とパート店員が衝突を繰り返しながらも協力して三流スーパーの改革に乗り出す人間ドラマ。出世欲丸出しの官僚に織田裕二、彼の教育係で現場主義の店員に柴咲コウがふんし、コミカルな掛け合いを披露する。『踊る大捜査線』シリーズではノンキャリアの熱血刑事を演じた織田が、融通の利かない公務員を好演して新境地を開拓している。
K県庁のキャリア公務員・野村聡(織田裕二)は、ある時、民間企業との人事交流研修のメンバーに選ばれるが、研修先は客もまばらなスーパー。しかも野村の教育係・二宮あき(柴咲コウ)は、年下のパート店員だった。